大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ラ)793号 決定

抗告人

坂紘一郎

抗告人

坂悦子

右両名代理人

榊原正毅

榊原恭子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人らは「原審判を取消し、更に相当な裁判を求める」旨申立て、抗告の理由は、別紙記載のとおりである。

本件記録によれば、原審判の事実認定は首肯することができ、右事実によれば、いまだ戸籍法一〇七条一項にいう「やむをえない事由」があるとはいえない、との原判断もまた正当である。

抗告理由は、抗告人紘一郎と養父・亡松岡義彦とは離縁をしておらず養親子関係が継続しているから、縁組前の氏に復するとする戸籍上の取扱は間違つており、どちらの氏を称するかは本人の意思を尊重して決定すべきである、と主張するので、これについて検討する。

養親の死亡により、養子との間の親権関係、扶養関係は消滅し、相続関係は、恰かも死亡によつて効果発生する。すなわち、養親の死亡によつて養親と養子との間の親子関係は消滅する(恰かも、実親子関係が死亡によつて消滅するのと同断である。)。その後に残存するのは、養親の血族と養子との間の決定血族関係だけである(恰かも、配遇者の死亡によつて、夫婦関係は消滅するが、姻族関係が残存するのと同じである。)。この残存する法定血族関係を消滅させる法律行為を、民法は「離縁」と呼んでいる(八一一条六項)が、この「離縁」の本質は、養親の死亡後もなお残存する養親の血族と養子との間の法定血族関係を消滅させる養子の一方的意思表示に外ならない(恰かも、姻族関係終了の意思表示と本質的に同じであり、家庭裁判所の許可を要する点が、これと違うだけである。)。

したがつて、養父死亡後、養子が養母と離縁すると、これによつて、養親子関係はすべて消滅し、なお残るのは、養父の血族と養子との間の法定血族関係だけであるから、戸籍の実務取扱上、これによつて、画一的に(戸籍の実務は、その性質上、画一的に処理されるべきものである。)養子は縁組前の氏に復するとしているのは、首肯しうる根拠があるのである。論旨は、養父が死亡しても養父子関係は消滅せず、死後離縁によつて始めて消滅するとの民法の誤解に立脚するものであるから、採用することができない。そして、右取扱により抗告人紘一郎の縁組前の氏(坂)に復した抗告人らが、旧養親の氏(松岡)を称しなければ重大な支障があるとは、本件一切の資料によつても、認めることができない。

よつて、主文のとおり決定する。

(瀬戸正二 小堀勇 奈良次郎)

抗告状 〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例